中小企業の賃上げと設備投資を支える2026年度の業務改善助成金が9月1日に始まった。東京など10月1日に最低賃金が改定される地域では、申請期限が9月30日に迫る。
東京などは9月30日が期限
厚生労働省は9月1日、2026年度の業務改善助成金の申請受け付けを始めた。事業場内の最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上につながる設備などに投資する中小企業・小規模事業者を支援する。
申請期限は、事業場に適用される新しい地域別最低賃金の発効日前日と11月30日のうち、早い方だ。東京、大阪、埼玉はいずれも10月1日に新額が発効する。この3都府県では、9月30日までに申請しなければならない。
東京都は時給1226円から1280円へ、大阪府は1177円から1231円へ、埼玉県は1141円から1196円へ引き上げる。金額も発効日も地域によって違う。複数の店舗や工場を持つ企業は、所在地ごとに確認する必要がある。
支援の対象は賃金ではなく設備投資
助成金は、賃上げによって増えた人件費を穴埋めするものではない。事業場内最低賃金を50円、70円、90円のいずれかのコースで引き上げ、そのうえで設備や業務の流れを改善する投資を行う。
対象経費の例として、在庫管理機能のあるPOSレジ、リフト付き特殊車両、専門家による業務フローの見直し、顧客管理のデジタル化などが示されている。パソコンやスマートフォンは原則対象外。ただし、物価高騰などの要件を満たす特例事業者には認められる場合がある。
申請は会社全体ではなく、店舗、工場、事務所など事業場ごとに行う。同じ会社でも、所在地やそこで働く人、賃金水準が違えば、別の申請として考えることになる。
「最大600万円」は一部に限られる
助成額は、対象経費に助成率を掛けた金額と、コースごとの上限額を比べ、低い方で決まる。引き上げ前の事業場内最低賃金が1050円未満なら助成率は5分の4、1050円以上なら4分の3となる。
最大600万円となるのは、90円コースで10人以上の賃金を引き上げ、さらに賃金水準や物価高騰などの条件を満たす特例事業者だけだ。制度を利用すれば600万円を受け取れる、という意味ではない。
厚労省は、最低賃金1040円の事業場で8人を90円引き上げ、600万円を投資する例を示す。経費の5分の4は480万円だが、この場合の上限は450万円。実際の助成額も450万円となる。
賃上げと設備投資、動ける時期が違う
賃上げは申請の後、新しい地域別最低賃金が発効する前日までに行う。引き上げ後の額は就業規則などに定めなければならない。50円、70円、90円の引き上げを何回かに分けて実施することもできない。
設備投資は逆で、交付決定を待ってから発注・導入する。決定前に購入すれば、制度の対象になり得る機器でも経費が認められない可能性がある。
事業の完了期限は、交付決定を受けた年度の1月31日。納期や支払日がずれそうなときは、先に労働局へ相談し、計画変更が必要か確かめたい。
月給制でも時間額への換算が必要
地域別最低賃金は、正社員、パート、アルバイト、臨時、嘱託といった呼び方にかかわらず、原則すべての労働者に適用される。月給制も例外ではない。
月給の場合、最低賃金の計算に含める賃金を1カ月平均所定労働時間で割り、時間額に直す。賞与、時間外・休日・深夜の割増分、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは含めない。
中央最低賃金審議会が7月に示した2026年度の目安は、全国加重平均で55円、率にして4.9%の引き上げだ。全都道府県が目安どおり改定すれば1176円となる。ただし、職場で使うのは各労働局が決めた地域別最低賃金だ。
まず賃金台帳の確認から
制度を使うかどうか決める前に、賃金台帳と雇用契約を確かめたい。事業場内最低賃金をみる対象は、原則として雇い入れから6カ月を超えた労働者。賃上げ人数には、週20時間以上働き、雇用保険に加入する人を数える。
新しい最低賃金が給与計算期間の途中で発効しても、その日から新額以上を支払う。足りない分があれば速やかに精算する必要があり、未払いを放置すれば罰則の対象となり得る。
見直すのは最低賃金ぎりぎりの人だけではない。すぐ上の賃金帯との差が縮まれば、経験や役割に応じた処遇が崩れる。助成金の準備と並行して、賃金表や採用時給、残業単価、人件費予算まで点検する必要がある。
記事に出てくる用語
業務改善助成金 事業場内最低賃金の引き上げと生産性向上の投資を組み合わせた中小企業向け助成制度。
事業場内最低賃金 一つの工場、店舗、事務所などで支払われている最も低い時間当たり賃金。
地域別最低賃金 都道府県ごとに定められ、その地域の原則すべての労働者に適用される賃金の下限。
発効日 改定された最低賃金の法的効力が始まる日。
助成率 対象経費のうち、制度が助成する割合。2026年度は条件により4分の3または5分の4。
助成上限額 賃上げ額と人数に応じて決まる、支給可能額の上限。
特例事業者 賃金水準または物価高騰等の要件を満たし、上限額や対象経費の特例を受けられる事業者。
申請前の確認項目
- 事業場ごとの改定額と発効日を確認する。
- 月給、日給、歩合給を時間額に換算する。
- 算入しない手当や割増賃金を除いて比較する。
- 50円、70円、90円のコースと対象人数を決める。
- 設備投資の計画と見積書を準備する。
- 交付決定前に対象設備を発注しない。
- 就業規則、雇用契約、給与計算を更新する。
助成金を申請しても、最低賃金への対応期限は変わらない。まず新しい地域別最低賃金を確実に守り、そのうえで投資内容と手順が制度に合うかを見極めたい。
主な公的資料
2026年9月4日現在。一般的な法務・経営情報の提供を目的としています。申請要件、期限、適用額は事業場を管轄する労働局で確認してください。
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